すごすぎる天気の図鑑

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荒木健太郎の雲研究室

人生を変えた落書き

雲やってますか? 雲研究者の荒木健太郎です。
これまでnoteとか、記事を書けるソーシャルメディアをやっていなかったんですが、そろそろ何かやっておこうかなと思い、この「荒木健太郎の雲研究室」をはじめました。
せっかくなので、たまに雲談義でもしていこうかと思います。

というわけで、初回は落書きの話です。

2013年、雲野郎(荒木のことです笑)は雲物理の研究室にやってきて1年がたち、地上マイクロ波放射計という観測機器を使って、積乱雲の発生前環境場を調べようとしていました。


発達した積乱雲。『すごすぎる天気の図鑑』(荒木健太郎/KADOKAWA)より。


積乱雲の寿命は30分~1時間と、天気図上に現れる低気圧などよりも短時間での現象です。積乱雲は大気の状態が不安定なときに発達しますが、この大気の状態を決めているのが気温と水蒸気量の高度分布です。

これまで上空の気温や水蒸気量は高層気象観測(ラジオゾンデ観測)によって観測されていましたが、観測頻度は1日に2回(朝9時と夜の21時)です。時間間隔にして12時間と、積乱雲の発生直前の空がどうなっているのかを調べることが難しい状況でした。

地上マイクロ波放射計は、空や雲が発する微弱な電磁波の受信機で、数十秒から数分間の時間間隔で電磁波の強さを観測できます。この電磁波から上空の気温や水蒸気量の高度分布を高精度に求める手法を開発し、超高頻度に大気の状態を調べることができるようになりました(Araki et al., 2015, SOLA)。


地上マイクロ波放射計(© Kentaro ARAKI)


この地上マイクロ波放射計は、今年度ついに線状降水帯の実態解明の観測研究のために気象庁が導入する方向で動いているアツい観測機器なのですが(令和4年度気象庁関係予算概要)、いままでほそぼそと研究を進めてきていました。機器や研究内容について詳しく知りたい方は、気象研究所のページ解説を見てみてください。新刊の『もっとすごすぎる天気の図鑑』でも紹介しています。

そもそも地上マイクロ波放射計の専門家が国内では極めて少なく、データの取り扱いがなかなか厄介で、当時は技術開発にまぁくじけていたわけです。その傍らで機器を山に設置してメンテナンスしていたんですが、カラスに追われるわ、熱中症になりそうになるわ、観測研究は肉体労働だということを痛感したのは良い思い出です。

それで、行き詰まった雲野郎はむしゃくしゃして落書きをしました。
積乱雲のこういうライフサイクルの一部(主に発生前環境場)を知りたいんや・・・!!!
それがこちらです。


むしゃくしゃして書いた。後悔はしていない。(© Kentaro ARAKI)


これまで雲は研究対象ではありましたが、雲目線で物事を考えたのはこれが初めてでした。たぶんこれがきっかけで雲や空の写真を撮るようになり、雲を好きになってきたんだと思います。
相手の目線になることでその気持ちに気づく・・・雲はまるで人間のようです。

これを友人に見せたところ、意外と好評で、「書籍化してほしい」という要望まで出る始末でした。

・・・そういえば雲の教科書の執筆依頼を受けて放置してたっけ。

そんなこんなで生まれた雲キャラを主軸に、最初の著書『雲の中では何が起こっているのか』(ベレ出版/2014年)を執筆し、それがきっかけで映画「天気の子」の気象監修をやることになったり、落書きは絵本『せきらんうんのいっしょう』(ジャムハウス/2019年)になったりもしました。

A4の裏紙に描いた落書きの雲キャラたちは、パワーポイントのオートシェイプで作ったイラストに進化し、これまでの著書で大活躍してくれました。
それが、『すごすぎる天気の図鑑』(KADOKAWA/2021)ではちゃんとイラストにしていただき、新たな命が吹き込まれたのです。


『すごすぎる天気の図鑑』(荒木健太郎/KADOKAWA)より


まさかむしゃくしゃしてやった落書きがここまで大きく人生を変えるとは思っていませんでしたが、この落書きがなかったら今の自分はいないのだろうなぁと思います。
思考整理をするために表現することは重要ですね。文字でも絵でも。そうしてアウトプットしたものが化けることがあるというのも面白いです。

ちなみに、空気のかたまりであるパーセルくん(エア・パーセル)にはこれまで執筆した書籍のなかで、熱力学や雲物理を説明するためにだいぶ体を張ってもらっています。


『すごすぎる天気の図鑑』(荒木健太郎/KADOKAWA)より


実はこのパーセルくんも、落書きがきっかけで生まれました。
その落書きがこちらです。


調子に乗って書いた。少し後悔している。(© Kentaro ARAKI)


最初はネクタイをしたサラリーマン風の「酔いどれパーセルくん」でした。
本に書いて印刷できないような表現が多く、かつかなり偏った説明になっていたので(そして上司に謎のヒゲがある・・・)、だいぶ表現が変わっていまのようなかたちに落ち着いたのです。

何にしても重要なのは、アウトプットすることです。
とにかく書いて見えるようにする。論文でも本でも何でも、公開までもっていってそこから議論が広がるものだと思います。

表現でお悩みの雲友さんがいたら、とりあえず作品の写真を撮って「#天気の図鑑」のタグでもつけてTwitterで投稿してみましょう。
雲野郎も見るし、他の雲友さんも見てくれるし、めっちゃいいねします。雲を愛でましょう。


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